モーダルを開く
言語切り替え
音量切替
画像
JUL 18 2025 #Fashion

カオスというシナジーを。

藤田佳祐 がつくる、
THE FOUR-EYEDという実験場

画像

新宿・歌舞伎町を奥に進み、あるラブホテルの脇を抜ける。そこに突如現れるのが、セレクトショップ『THE FOUR-EYED』だ。

出自不明のアートや証明写真機、ラフに積まれた畳が並ぶ奇妙な空間に、Martine Rose(マーティン・ローズ)やCarne Bollente(カルネボレンテ)などのパワフルな服が揃う。友達の家のように落ち着けるのは、オーナー・藤田佳祐さんの“来るもの拒まず”な人柄のおかげだろう。心地よいカオス。この店を表現するなら、そんな言葉がしっくりくる。

軽やかな好奇心で実験を続け、訪れる者の感性を挑発する。そんな藤田さんに、自身のルーツと『THE FOUR-EYED』の現在地、そしてこれからについて伺った。

topic : 1

ストリートファッション=“普段着”。藤田さんが持ち続ける視点

💬 改めて藤田さんの来歴について教えてください。

藤田 : 最初のキャリアは大阪にあるセレクトショップと古着屋のスタッフでした。2011年に上京して色々始めようとしていたのですが、東日本大震災で全てがペンディングになってしまって。そのタイミングで、大阪時代からお世話になっていたストリートスナップ雑誌『FRUiTS』や『TUNE』の編集室に声をかけてもらったんです。

しばらくは専属のフォトグラファーとして活動していたのですが、2015年頃にファッション業界の潮流が変わるのを感じて。「大きな波にメディアとして携わるのではなく、“作る側”に回りたい」と思い、『THE FOUR-EYED』を立ち上げました。

💬 藤田さんが影響を受けてきたカルチャーは「服」「写真」「ストリート」の中だとどの要素が大きいですか?

藤田 : 「写真」以外です。言い換えれば、“普段着”という意味での「ストリートファッション」ですね。

💬 ストリートファッションに興味を持ったきっかけは?

藤田 : 僕の小学生時代まで遡るんですけど、実家がいわゆる転勤族で。都道府県を跨ぐくらいの大きな転校を2年に1回ぐらいしていたんです。頻繁に環境が変わるから、サバイブしていくために順応性のようなスキルが求められて。

最も効果的だったのが「地域ごとの服装の“ルール”を読み取って、それに合わせる」ことだったんです。例えば、長野県の学校にはジーンズを穿いたら駄目な校則があったんですよ、今は知らないですけどね(笑)。それが地域ごとのファッションの特色に目を向けるようになった原体験といえますね。

💬 藤田さん自身が着る服の好みはありますか?

藤田 : 知性を感じるものです。それは単に生地や縫製、ブランドのコンテクストの話ではありません。例えるなら今日の服でいうと、このAnton Belinskiy(アントン・ベリンスキー)Tシャツなんかは、ボリス・ジョンソンへのアイロニーを交えたメッセージ性をあえてシンプルにプリントTシャツに落とし込んでいる点を面白く感じることができます。

あとは古着と同じような感覚で着られる服。例えば今穿いているMartine Rose(マーティン・ローズ)のパンツがそうですね。僕が好きな古着は、「こういう着こなしができる」という目標に到達できるのではなく、「どう着こなそう?」と考えさせてくれる服なんです。このパンツも穿いているとインスピレーションを与えてくれる。それが好きなところですね。

💬 今日のコーディネートはどのアイテムから組み立てましたか?

藤田 : COMME des GARÇONS GIRL(コム・デ・ギャルソン・ガール)のジャケットです。昭和生まれにとってはヤンキーが着ていた短ラン(着丈を65〜70cm程度より短く改造した学生服)が馴染み深くて。今日はL.DOPEという海外にも拠点を置くメディアの方が取材に来てくれるから、”日本らしさ”を出すために選びました。

ボトムスにマーティン・ローズを選んだのは、昭和のヤンキーが細いパンツを穿かないから(笑)。その日に対面する相手に与える印象を考えながらコーディネートをすることは多いですね。

💬 藤田さんにとって「カッコいい」とはなんですか?

藤田 : 「怖い」ということだと思います。カッコいいと思う感情には「憧れ」や「好き」が含まれていますよね。自分が好意を抱いている人に、大抵の人は自分をよく見せたいと思う。それは裏返すと「怖い」にも近いと思っていて。だからお客さんがたまに『THE FOUR-EYED』のことを「怖い」と言ってくれるのも嫌じゃないんです。

topic : 2

退屈をひっくり返す。『THE FOUR-EYED』で行う実験

💬 『THE FOUR-EYED』を立ち上げるに至った原体験として「2015年ごろにファッション業界の潮目が変わるのを感じた」とおっしゃっていました。具体的に、当時どのようなことが起きたのでしょうか?

藤田 : デザイナーのデムナ・ヴァザリアとスタイリストのロッタ・ヴォルコヴァの台頭です。僕はその直前までの時代を象徴するようなブランドは退屈だと思っていたんですよね。「嫌いだった」とはっきり言ってもいいです。でも、2人が手がけたVETEMENTS(ヴェトモン)のショーにはそれをひっくり返すくらいの力がありました。

💬 それはどのような点でしょうか?

藤田 : 僕がまだ雑誌『STREET』のフォトグラファーとしてランウェイを見にいっていた頃、どのショー会場にも個人的に好きなスタイリングの関係者やゲストが1人や2人はいたんです。でも、ヴェトモンのショー会場にいたのは9割がそんな人だった。

自分と“同じ周波数”の人がこんなにたくさんいて、同じブランドに注目している。そしてその後すぐに(ブランドが)急成長していくのを目の当たりにして、その高い濃度とエネルギーに驚いて。この人たちがInstagramのフォロワー数では測れないような大きな影響をファッション業界に与えるビジョンも見えたんですよね。

💬 『THE FOUR-EYED』を立ち上げるにあたり、その原体験はどのように活きていますか?

藤田 : あのショー会場で僕は一筋の光のようなものを見て。『THE FOUR-EYED』も誰かにとってそんな“希望”であればいいなと思いました。ちょっと大げさですね(笑)。でも、このお店のターゲットは年齢や性別ではなく“退屈している人”なんですよ。今の流行に「面白くない」と感じられる人にとって刺激的であるかどうかは、確実にコンセプトとして意識しています。

💬 畳や証明写真機などが置かれた、一般的なセレクトショップにはない内装も刺激的だと思いました。

藤田 : 未完成であることを大事にしていて。何かが綺麗に並んでいる中で1個だけ傾いていたら直したくなるような感覚です。実はお店がオープンしてから9年経つ中で、置いてあるものだけでなく、壁から床までがどんどん変化しているんですよ。常に変わり続ける“生き物”のような店でありたいですね。

topic : 3

ブランドとは対等に。シナジーを起こす『THE FOUR-EYED』の哲学

💬 数ある東京のセレクトショップの中で、『THE FOUR-EYED』はどのような立ち位置だと思いますか?

藤田 : トップクラスに前衛的なお店、でしょうか。“わからない人からすればわからない”でいいと思っています。

💬 ヨーロッパやアジアの気鋭ブランドを数多く取り扱っていますが、セレクトの際に意識していることはありますか?

藤田 : 何か特別なことをしているかと言われたらそんなことはあんまりなくて。ただそのブランドを現地で見ることです。いかに退屈だと感じている人たちに的確に届けるかを考えたら、各地でシナジーを感じるブランドと知り合って、取引をすることに尽きるなと。

💬 藤田さんが“同じ周波数”の人やブランドと出会うためにどのようなスタンスでいますか?

藤田 : ファッションっていう共通言語があるので、視覚的な情報が第一でいることですね。内面的な部分は後でいいかなと。人間性によって関係値が継続する長さは変わるかもしれないですけど、それが原因で最初から拒むことはないですね。

💬 取り扱っているブランドとのコラボレーションもよくされていますが、特に印象に残った施策はありますか?

藤田 : 約1年前にカルネボレンテという“セックスポジティビティ”をテーマにしたブランドが10周年を迎えたんです。その記念にTシャツを作ったことですね。『THE FOUR-EYED』がオープンした時から付き合いのあるブランドなので、感慨深くて。親友とのバースデーパーティーをしたような気分でした。

💬藤田さんはどのブランドとも深い関係を築いているように感じます。

藤田 : ブランドと“対等”でいたいと常に思っています。というのも……せっかくなので挑戦的なインタビューにしましょうか(笑)。『THE FOUR-EYED』をオープンした当初から決めていたことがあって、“ブランドにあやかる店”になりたくないんです。

例えば一部の古着屋等で見るような、裏原宿ブランドやデザイナーズのアーカイブばかりを販売するお店とかありますよね。そんなふうに、他人が創造した付加価値をただ手放しで自分の利益にしたくはないんです。

💬セレクトショップの社会的意義についても聞いてみたいです。ファッション業界に携わることは大量生産・大量消費と向き合うことと同じだと思いますが、サスティナビリティにおいて藤田さんが意識していることはありますか?

藤田 : 「いかに環境に優しい服をたくさん作るか」って、僕は本質的ではないと思っているんです。それこそ皮肉な意味での“ファッション”だなと。「SDGs」や「サステナビリティ」という言葉が市民権を得る前から僕の中では一貫しているのですが、一番環境に優しいのは、買った服を長く大事にすることだと思うんですよね。

『THE FOUR-EYED』では買った人にとっての文脈になるような、ストーリーテリングできる服を選んでいます。環境に優しい服を大量生産するよりも、多少有害でも深く愛着を持てる服を売った方が”二酸化炭素の排出量”は絶対に少ないはずです。

💬 藤田さんがセレクトしたブランドの中で特に挑戦的だと感じたものはありますか?

藤田 : 全てがそうだと言いたいところですが、2023年に取り扱いを始めたNIKE(ナイキ)は特に挑戦です。ここまで話した僕の考えを端的にまとめると、キャピタリズムと戦っているんですよ。でも、あえて資本主義の象徴のようなブランドを仕入れた。もちろんナイキが相手でも“対等”です。仕入れるアイテムはあくまで当店らしいセレクト。ある意味、ナイキと僕の双方にとっての挑戦ともいえますね。

topic : 4

既存のサイクルから離れる。ファッション業界の変遷、藤田さんの挑戦

💬コレクションのサイクルが見直されるなど、ファッション業界は過渡期を迎えています。今後、さらにどう変化していくと思いますか?

藤田 : スピーディーで多様化した情報伝達技術を上手く利用したブランド運営が求められると思うんです。特にパンデミック以降はその実例も増えてきていて。例えば、自粛期間に個人が始めたブランド。ちょうど今が続けられた人とそうでない人の差がはっきり出てきた頃で。残った才能のある人たちの多くは、ファッションウィークや合同展示会に参加せず、年に2回から4回というサイクルからも離れて活動している。

各々が小さなコミュニティでそれに応じた規模の経済を回しているのも特徴ですね。今後はよりそういった形態が増えていくと思いますし、僕としてもそんなブランドに注目したいです。

💬 『THE FOUR-EYED』は来年で10年目を迎えます。物事を継続するために意識していることはありますか?

藤田 : 忍耐です。僕の『STREET』『FRUiTS』時代の恩師でもある青木正一さんも「一度やると決めたことは、うだうだ考えずにやり抜け」と言っていました。おそらく誰に聞いても同じ回答をするくらい、基本的で大事なことだと思いますね。

💬 今後、『THE FOUR-EYED』や藤田さんが取り組みたいことはありますか?

藤田 : お店でも秘密裏に色々画策していますが、今日は僕自身のニュースであればお話しできそうです。実は今年の秋から学校に通うんですよ。とある人と一緒に働くために、新しいことにチャレンジしてみようかなと。

大人になってから自分のお金で学びを得るって、とても幸せなことなんだと気づきました。今はランドセルを買ってもらった子供のような、楽しみな気持ちでいっぱいです。

📝 Text by Koki Yamanashi  | 📷 Photo by Mizuo

️藤田佳祐 - Keisuke Fujita

THE FOUR-EYED CEO、1984年京都府生まれ。大阪の古着屋・セレクトショップで小売の経験を積んだ後、2011年上京。その後、雑誌『STREET』『FRUiTS』の編集室に所属し、フォトグラファー・副編集長として活動後、2016年より歌舞伎町にセレクトショップ「THE FOUR-EYED」をオープン。2020年、「THE FOUR-EYED」での取り扱いをきっかけに事業拡大をしていったアジア圏のブランドのショールーム 9fox LLC. を設立。現在は各会社のオーナー兼プロデュースを務める一方で、個人でもフォトグラファーとして活動。

🔽

THE FOUR-EYED

東京都新宿区歌舞伎町2-8-2 パレドール歌舞伎町1F
Opening: 12:00 - 21:00

🔽